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1746年にローマで演奏された曲を、日本で蘇演する ことの意味と価値。


千葉バッハ合唱団指揮者 福島康晴
6年間のイタリア留学の後帰国し、自らが立ち上げたプロの音楽集団、エクス・ノーヴォ室内合唱団の最初のコンサートで取り上げるのは、日本では全くと言っていいほど知られていないイタリア後期バロックの作曲家、フランチェスコ・ドゥランテ Francesco Durante (1684-1755)であった。

その思いと背景を、福島先生に伺いました。

Q、記念すべき第一回の演奏会において、オール ドゥランテ プログラムとなっています。
日本ではあまり知られていないこのドゥランテという作曲家との出会うきっかけ、イタリアでの演奏履歴、今回取り上げる理由とその思いを聞かせてください。

A, 私はイタリアのパヴィーアという町にある、ギズリエーリ合唱団に所属していました。この合唱団は今やイタリアでも屈指の室内合唱団で、歌手やオーケストラのメンバーは皆高い技術を持っています。そこで、ドゥランテのマニーフィカトを歌ったことがあるのですが、初めてこの曲を歌ったときに、鮮烈な印象を受けました。非常に分かりやすい音楽と共に、歌っていて非常に心地よい気分にさせられたのです。それ以降何度もこの作品を歌いましたが作品の持つ魅力は消えませんでした。ドゥランテ自体は<Vergin, tutto Amor>の作曲者なので知ってはいましたが、彼の代表的な作品とは言えません。それにドゥランテは宗教音楽を多く作曲したので、もっと他の作品を知りたいと思ってリサーチしていたら、ミラノ音楽院に所蔵されているリタニアの筆写譜とナポリの図書館に所蔵されているレクイエムの筆写譜を見たときに、間違えなくこれは素晴らしい作品だと確信し、直ぐに楽譜を作成する決心をしました。リタニアは私の知る限り録音はありませんし、このレクイエムもyoutubeに或る録音がアップされているだけで、ほとんど知られていない作品です。この作品は1746年にローマで演奏されたという記録が残っていますが、既に62歳だったドゥランテの技法も円熟していて、無駄が無く、飽きさせることのない反復進行 (progressione) や、サンクトゥスで行われている2重カノンなど、内容も盛りだくさんです。楽しみ方として、モーツァルトのレクイエムと比較しながら聴いていくのも面白いと思います。

Q、団体名「初めから作り直す EX NOVO (ラテン語)」にふさわしいコンサートになることが期待されますが、オーディションを経て結成された合唱団の人選についてくわしくお聞かせください。

A, 勿論、これから有名なモンテヴェルディの作品も演奏したいのですが、私はオリジナルの楽譜を見て、これは絶対に素晴らしい作品だ!という直感が非常に働くので、世界復活初演のような機会も度々あるでしょう。合唱団のメンバーについては、幸運にも多くの方がオーディションに参加して下さいました。本当に多くの方が、このような歌う場を欲しているのだなと再確認させられました。人選は100パーセント私の趣向です。ですから、今回選ばれなかった人が必ずしも劣っているとは限りません。また合唱団のレパートリーとしては後期ルネッサンスからバロックなので、実際パレストリーナとヴィヴァルディで必要とされる声は異なることもあります。ですから、演目によってメンバーが替わることもあります。今回は、各パート4人の16人という編成です。レクイエムは8声なので、各パート2人です。

Q、オーケストラは福島さんが以前に主宰されていたアンサンブル・アウラや、モンテヴェルディ倶楽部でもおなじみの伊左治道生さんを始め、実力派ぞろいとなっています。
こちらの陣容についてもお聞かせください。

A, はい、伊左治道生さんと懸田貴嗣さんは同じ時期にミラノにいたので、気心しれた仲間という感じではありますが、それ以上に、イタリア・バロック音楽を本当に追求した人たちなので安心して任せられるの存在なのです。伊左治さんとはミラノにいたとき、その内一緒にコンサートをしようという「契り」を交わした仲だったので(笑)、今回呼ぶことが出来て本当に嬉しいです。その他のメンバーも、今の古楽界には欠かせない実力派の演奏家揃いですので、間違いなく、これも聴き所です。

Q、マイナーな作曲家を取り上げるときは楽譜の苦労がつきものですが、総譜、合唱譜、パート譜、出版されていないとしたらこれらの準備は相当な労力だったのではないでしょうか。

A, モンテヴェルディ作品などは、既に現代譜として出版されているものを私も利用して演奏しますが、必ず当時のオリジナル出版譜を見て確認します。楽譜を自分で作成した場合、オリジナルをしっかり自分で確認することも兼ねるので、利点も多いのです。ただ楽譜作成は非常に忍耐のいる仕事です。例えば今回のレクイエムの総譜は180ページを越えました。それに合唱譜、パート譜のレイアウトなど骨の折れる仕事です。しかし、完成したときの喜びも大きなものです。今後は、出版されていない作品であれば、どこかで出版してもらうようにお願いするつもりです。2月に発売されたCD「A.ステッファーニ:2声のための室内カンタータ集」の楽譜も私が作成しました。これに関しては既にPian & Forte edizioniという出版社からダウンロード販売されています。

Q、調律やピッチについてお聞かせください。

A, ピッチに関しては演目によって変わるでしょう。例えばローマやナポリのものを演奏するときは415Hz以下でしょうし、北イタリアのものは440Hz以上で演奏するつもりです。調律はミーン・トーンから平均律まで色々な可能性がありますが、それはあくまで鍵盤楽器の話なので、合唱に関しては限りなく純正律の耳を作ることが大切だと思っています。例えば、歌うときの我々の耳は、純正の3度や5度を追求していくことは可能ですが「正しい」ピタゴラスの3度と「正しい」ミーン・トーンの5度など本能的に合わせることは困難ですから。

Q、最後にお越し下さるお客様に一言をお願いします。

A, 常に新鮮なプログラムと高い演奏の質を目指して参りますので、これからのエクス・ノーヴォ室内合唱団ぜひ注目して頂き、ご支援頂けたらと思います。

エクス・ノーヴォ室内合唱団コンサートちらし

エクス・ノーヴォ室内合唱団結成記念演奏会


福島康晴先生が主宰するエクス・ノーヴォ室内合唱団の結成記念演奏会が開催されます。
公式サイトはこちら
エクス・ノーヴォ室内合唱団コンサートちらしエクス・ノーヴォ室内合唱団ちらし裏

エクス・ノーヴォ室内合唱団結成記念演奏会

フランチェスコ・ドゥランテの全貌が明らかに!

フランチェスコ・ドゥランテの《レクイエム》~8声のための~
Francesco Durante (1684-1755) / Messa di Requeim in Do minore
《リタニア》~4声のための~
Liyania
《マニーフィカト》~4声のための~
Magnificat

エクス・ノーヴォ室内合唱団&コンソート

ソプラノ:小林美央、平野香奈子、森川郁子、山崎千恵
アルト:木島千夏、木下泰子、関奈美、田中栄吉
テノール:鏡貴之、鈴木秀和、中嶋俊夫、中村康紀
バス:阿部大輔、西久保孝弘、三浦英治、望月忠親

ヴァイオリン:伊左治道生、高橋亜季、宮崎容子、廣海史帆
ヴィオラ:天野寿彦
チェロ:懸田貴嗣
コントラバス:角谷朋紀
ホルン:小川正毅、松浦光男
オルガン:桒形亜樹子

指揮:福島康晴

2014年5月5日(月・こどもの日)14:00開演

ミレニアム・ホール(台東区西浅草3丁目25番16号 台東区生涯学習センター内)
前売:4,500円 当日:5,000円(全席自由)
前売取り扱い:東京文化会館チケットサービス(3月17日発売開始)☎ 03-5685-0650
チケット申し込み&お問い合せ: ☎ 070-5360-6678
e-mail: info@exnovochamberchoir.com

後援:日本イタリア古楽協会

プレイヴェントとして音楽学者 山田高詩先生による特別講演会

《ドゥランテの作品と生涯》

が開催されます。

2014年4月27日(日)14:00-16:00

葛飾シンフォニーヒルズ別館2F・メヌエット
会費:一般 1,000円、AMAIG会員 500円(先着40名様限定・要予約)
※一般の方には、講演会当日、コンサートの前売り券を4,000円にて販売いたします。
予約受付: info@exnovochamberchoir.com
協賛: 日本イタリア古楽協会

ご期待ください。

待望のイタリア・バロック専門合唱団、ここに誕生!


指揮者 福島康晴先生が、あたらしくイタリア・バロック専門合唱団を立ち上げました。
現在オーディション参加者を募集しています。

「福島康晴が主宰するエクス・ノーヴォ室内合唱団は、イタリア音楽、それも後期ルネッサンスからバロック時代にかけての宗教曲をレパートリーの中心に据えた団体です。コンサートで取り上げる作品は、必ずそのオリジナル印刷譜か手稿譜を研究し、当時の音楽理論書も参照しながら演奏を構築して行きます。ヨーロッパでは頻繁に演奏されるけれども日本ではあまり取り上げられない作品や、ヨーロッパの古文書館に収められたまま、まだ演奏されていない未知の作品、そして、既にレパートリーとして定着しているけれども演奏法を再考する必要があると思われる作品を「初めから作り直す EX NOVO (ラテン語)」ことを掲げ、ここに誕生しました。」

詳しくは公式サイトをご覧ください。
http://exnovochamberchoir.com/
福島先生のフェイスブック
https://www.facebook.com/yasuharu.fukushima/posts/10201995632186907

二代目指揮者に就任!福島康晴スペシャルインタビュー


伊藤博先生からの後任指名を受け、2013年5月5日に千葉バッハ合唱団指揮者に就任した福島康晴さん。その経緯と思いを伺いました。

Q.伊藤先生の跡を受けてバッハ合唱団の2代目指揮者となったお気持ちは

やり甲斐のある仕事だと思っています。というのも、私が知る中では千葉で古楽器を使いながらバッハの作品を継続的に歌う団体は他に無いと思います。そして、その様な団体が千葉にも当然あるべきだと思いますし、その伊藤先生の意図を受け継ぎたいという思いが強いです。私は6年間イタリアで活動していたのですが、その間にイタリアの音楽はもちろんのこと、バッハの作品を歌う機会も非常に多かったのです。昨年、帰国しまして、これから日本でイタリアのバロック音楽を中心に演奏することにはなりますが、心の中ではバッハの作品にも常に触れていたいという気持ちもありましたので、喜んでお引き受けしました。

Q.どのような合唱団にしていきたいと思いますか

出来れば20人から25人位の合唱団にしていきたいと思っています。あまり少ないと、それぞれにかかる負担が大きすぎますし、多すぎると、音楽に直接関わっているという感覚が希薄になってモチヴェーションを保つのが難しいと思います。千葉では、マタイ受難曲やロ短調ミサなどを大合唱団で歌う試みはされてきましたが、やはり質を求めるともっと小さな編成で演奏するべきでしょう。根底にはアンサンブルの感覚が絶えずあって、カンタータやモテット、コラールなどを通じて常にその感覚を鋭敏にしておく必要があると思います。

Q.今後、どのような曲を取り上げていくことになりますか

バッハに関しては、やはりカンタータやモテットを中心に据えていくでしょう。必要に応じてその他の宗教曲も演奏していくつもりです。また、バッハの他にもシュッツやブクステフーデ、私がイタリアで知ったアレッサンドロ・スカルラッティとドメニコ・スカルラッティの宗教曲も是非取り上げたいと思います。また、ルネッサンスの音楽を演奏することも合唱団にとっては非常に重要なトレーニングになるとおもいますので、パレストリーナやヴィクトリアなども取り上げていきたいです。

Q.合唱あるいは声楽をやる上で、特に重きを置く要素は、また合唱団員に望むことは何でしょう? 

歌手というのは歌うことに喜びを感じています。それは、何年経っても変わりません。私は伊藤先生が20年前に起ち上げたモンテヴェルディ倶楽部というヴォーカル・アンサンブルで歌い始めたのですが、その当時、毎回の練習が待ち遠しかったのを覚えています。私は昔よりも声楽の勉強を重ね、歌というものが本当に難しいものであると痛感していますが、それでも、歌う喜びは全く消えません。歌は身体が楽器ですし、もし、喜びを感じられないようであれば、長続きしないでしょう。私は常に合唱団の方にも、その喜びを共有し大事にして欲しいと願っています。
発声については千差万別で、色々な人が色々なことを主張します。私としては、いかにシンプルにしゃべる声の延長で歌えるかどうか、ということがテーマです。毎回の練習時に発声練習を行います。

Q.来年(2014年)の2/11に次の演奏会を開くことが決まっていますが、その後の主だった活動の見通しや目標は何かありますか

来年のコンサートでは”Jesu, meine Freude”をメインで演奏しますが、例えば5年に一回とかの周期で、クリスマス・オラトリオなどの大曲にもチャレンジしていくのもいいと思います。ブクステフーデの”Membra Jesu nostri”やモンテヴェルディの”Vespro”も候補に入るでしょう。

Q.先生は歌手や古楽器奏者など他の音楽家の方たちとの交友も広く、数多く共演もしていらっしゃいます。そのご縁でいずれ私たちもそうした方々と接する機会があればと期待しています。

そうですね。やはり優秀な音楽家と共演するのは非常に刺激にもなりますし、勉強にもなります。ですから、必要に応じて、素晴らしい音楽家を呼んで、共に音楽を作っていきたいと思います。